「帯取りの池」 岡本綺堂
f0035084_1531850.jpg『半七捕物帳』岡本綺堂
第8話「帯取りの池」

『半七捕物帳傑作選一 岡本綺堂著 読んで、「半七」!』北村薫/宮部みゆき編
平成11年 ちくま文庫

「屋敷は大久保式部という千石取りで、その隠居の下屋敷は雑司ヶ谷にあるそうです」
「じゃあ、なにしろその雑司ヶ谷というのへ行って見ようじゃあねえか。飛んでもねえものに突き当たるかも知れねえ」


雑司ヶ谷へゆき着いて、大久保式部の下屋敷をたずねると、さすがは千石取りの隠居所だけに屋敷はなかなか手広そうな構えで、前には小さい溝川が流れていた。

「だが、まあいいや。久し振りでこっちへのぼって来たから、鬼子母神様へご参詣をして、茗荷屋で昼飯でも食おうじゃねえか」
 二人は田圃路を行きぬけて、鬼子母神前の長い往来へ出ると、ここらの気分を象徴するような大きい欅の木肌が、明るい春の日に光っていた。天保以来、参詣の足が少しゆるんだとは云いながら、秋の会式についで、春の桜時はここもさすがに賑わって、団子茶屋に団扇の音が忙しかった。すすきの木菟は旬はずれで、このころはその尖った嘴を見せなかったが、名物の風車は春風がそよそよと渡って、これも名物の巻藁にさしてある笹の枝に、麦藁の花魁があかい袂を軽くなびかせて、紙細工の蝶の翅がひらひらと白くもつれ合っているのも、のどかな春らしい影を作っていた。ふたりは欅と桜の間をくぐって本堂の前に立った。
「親分、なかなかご参詣があるねえ」
「花どきだ。おれたちのような浮気参りもあるんだろう。折角来たもんだ。よく拝んでいけ」
 松吉も真面目になって拝んだ。名代の藪蕎麦や向畊亭はもう跡方もなくなったので、二人は茗荷屋へ午飯を食いにはいった。


茗荷屋での犯人の逢引など

 鬼子母神のルビは「きしぼじん」。1859年(安政6年)の物語。
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# by ouraiza | 2002-01-01 00:46 | メモ/雑司が谷の本 | Comments(0)
「枇杷」 小沼丹
f0035084_1475133.jpg小沼丹 著
1975/9 筆(年譜)
『小さな手袋』1976小澤書店
『小さな手袋』1994講談社文芸文庫 所収

 昔、友人が目白に住んでいて、ときどき遊びに行ったことがある。まだ学生だったころだが、この友人は一軒の家を借りて住んでいて、その庭に枇杷があった。庭の隅には何竹だったか忘れたが小さな竹薮があった、友人は自ら竹林亭主人と称していた。
 
 暑いころだったと思うが、或る晩、その二階の座敷で夢中になって早い将棋を指していたら、いつの間にか東の空が明るくなって雀が啼き出したので驚いたことがある。雀の声を聞いたら急に草臥れた気がしたから、将棋は中止にして、雑司ヶ谷の墓地迄散歩した。雑司ヶ谷の墓地へ行ったのは、そのときが初めてだと思うが、竹林亭は近所だからちょいちょい散歩に行っていたらしい。
 ——いい墓を見せてやる。
 と云って、竹林亭気に入りの墓の前へ連れて行って呉れたのを想い出す。「何とか子ちゃんのお墓」と書いてあったことしか記憶に無いが、多分小さな女の子の墓だったのだろうと思う。それから、竹林亭の案内で、早朝のひんやりした墓地をあちこち歩いて、漱石、抱月、泡鳴の墓を見たが、いまはほとんど忘れている。



小沼丹<1918ー1996> 1940(s15)早稲田大学文学部英文科に入学 1942(s17)早稲田大学を繰り上げ卒業になる
この雑司ヶ谷霊園への散歩は昭和15年から昭和17年の頃。
竹林亭気に入りの何とか子ちゃんの墓とは、菅原克己が詩「雑司カ゛谷墓地の小さい墓」に描いた「まこちゃんのはか」ではないか。
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# by ouraiza | 2002-01-01 00:43 | メモ/雑司が谷の本 | Comments(0)
『雑司が谷村むかしばなし』矢島勝昭
f0035084_132630.jpg 矢島勝昭/著 1999 48p冊子 個人刊

目次
1 和尚さんのお宝    雑司が谷
2 松の井と針      鬼子母神
3 千人の乳       鬼子母神
4 生まれてくる子を見よ 雑司が谷
5 はだか参り      鬼子母神
6 不幸な霊魂      雑司が谷
7 境木の火       目黒通りと不忍通りの分岐
8 ふいりのマサキ 牛込、鬼子母神への道筋
9 損をした侍      目白通り付近
10 キツネのびんざさら 目白台三丁目不忍通り寄り
11 殺されたたぬき   鬼子母神
12 当てが外れた錦絵  鼠山・目白付近
13 鳩の貸し売り    雑司が谷霊園・鬼子母神
14 びょうぶのはなし  雑司が谷二丁目付近
15 足で道を教える   池袋駅付近
16 お赤飯のはなし   鬼子母神
17 「お」の字     鬼子母神
18 おいはぎと石仏   池袋駅付近
19 あわれな猫     雑司が谷二丁目付近
20 徐福のはなし    雑司が谷霊園内
21 サンカク大明神   目白台二丁目、目白通り北
22 折れ大根      雑司が谷霊園内
23 吉宗公と馬の名手  グリーン大通りの南北
24 麦わらの角兵衛獅子 鬼子母神付近
25 歩大尽       雑司が谷御嶽坂付近
26 のぼり自慢     法明寺
27 法明寺の鐘     法明寺
28 力くらべ      法明寺
29 巨大な作り物    法明寺
30 雑司が谷の「雑」  雑司が谷
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# by ouraiza | 2002-01-01 00:40 | メモ/雑司が谷の本 | Comments(0)
「雑司ヶ谷鬼子母神」島木赤彦
f0035084_21205179.jpg『現代紀行文學全集 詩歌篇』昭和33年 修道社

「雑司ヶ谷鬼子母神」島木赤彦
武蔵野の芒の梟買ひに來ておそかりしかば灯ともしにけり
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# by ouraiza | 2002-01-01 00:34 | メモ/雑司が谷の本 | Comments(0)