当店のショウウィンドウの前には、小さなワゴン(通称小ワゴン)が4台ある。閉店時には全部店内にしまうのだが、2台目をしまって3台目に戻って来た折(正味1分)、さも私達15分前からここでこうしてますけど的な激しさで接吻コンテストが繰り広げられている。一瞬怯んだが、精一杯の怒りを含んだ声で「すんません!」というと、逃げて行った。ウチでやるならせめてシャッターを降ろしてからにしてくれよ。
激しい線引きがある本が入ってきた。前回同じお客様から買い取りした際も、一冊一冊消しゴムで消して商品化するのが大変だったのだが、このお客様とにかく勉強家で、この方の線引きというのが凄い。代表は「本と闘った跡なんだよ」という言葉をよく使うが、線引きが格闘後の名誉ある傷跡だと考えると、それを消しゴムで消して格闘そのものが無かったことにしてしまう、というのは、何だかそのお客様に申し訳ないような気がしてくる。余談だが、MONOはよく消える。

『十字街』 久生十蘭 著 朝日文芸文庫
舞台は1930年代のパリ。フランス全土を揺るがした政治事件に日本人が巻き込まれる、という設定。非常にスピード感ある展開で面白く読めた。最初からぐいぐいと引っ張られていっただけに、エンディングは「・・へっ・・?これで終わり?!」というあっけなさを感じてしまったが、それでも読んで良かった、面白かった、と読者に思わせるのがこの作家のすごい所なのじゃないかしら。パリの描写なども、4年パリにいたとあって、きっと30年代のパリはこうだったんだろうな、と思える程自然。
この作家のペンネームですが、パリで師事していたシャルル・デュランをもじったという説と、「久しく生きとらん」「食うとらん」という意味だ、という説があるというのも今回初めて知った。ちなみに函館中学校だったそうだが、上級生に谷譲次、下級生に水谷準、亀井勝一郎がいたというのもスゴい!
国書刊行会より来月から全集が刊行開始されるそうな。

『幼年期の終わり』 アーサー・C・クラーク 著 光文社古典新訳文庫
言わずと知れたSF名作ですが、これは脳がフリーズすることなくちゃんと読めました。オーヴァーロード(最高君主)という異星人に人類が支配され、それにより新たな道を歩み始める人類。この世界では、どう足掻いても太刀打ちできない者によって支配されることにより、人間同士が争う意味がなくなり、思わぬ平和がもたらされる。高度なオートメーション化により、人が物を生産することは無くなり、誰もが必要な物は公平に入手でき、犯罪も無くなった。まさにユートピア状態、さぞかし生き易かろうという感もあるが、同時にこれでいいのか人間、という恐怖も感じる。争いや不満がないということはそれを創造的活動にぶつけるということがない訳で、となると、芸術というものはもはや発展しないことを意味する。うーむ。
つくづく思い知らされるのは、宇宙における地球のちっぽけさ。それを考えるとますます地球の外に畏れとロマンを感じずにはいられません。人類最後の生き残りによる地球が終わる瞬間までの実況中継は圧巻。読後感はややしんみりです。
クラークですが、アシモフと、最高のSF作家は誰か?と訊かれた時にお互いの名前を言い合う、という「クラーク-アシモフ協定」なるものを結んでいたというのが可笑しい。
惑星(ほし)みち