先週は、みっちり映画を見た週だった。ふだん映画館に行くことはおろか、なかなかDVDすら借りない生活なので、ひどく刺激的で満ち足りた気持ちに。
藤田容介『全然大丈夫』(渋谷シネクイントで公開中) メインキャストのひとりの木村佳乃が、とにかく絶望的に仕事ができず、転んだり倒したり壊したり水をこぼしたりし続ける。苗字が同じということもあり、他人事とは思えずひたすら感情移入。岡田義徳演じる清掃会社社員も、やはりどこか不器用で人の頼みをなかなか断れず、うろたえながらも何とか生活していく様がとても良かった。ただ主役とされている荒川良々の役は、私には口ばっか達者で全然実行が伴わないという、うざったい存在にしか見えず、そこに可愛らしさは見出せなかった。 主要な舞台のひとつが古本屋で、本棚や刺さっている本たち、備品の様子などを注視し続けていた。本を雑巾で拭いたり、紙袋にガサガサ入れるシーンがアップで映る映画はなかなか無いのではないだろうか。ただ、劇中に本の査定を練習する場面があるのだが、何の本かは分らなかったものの、買取にその値段は無いんじゃ・・・という高値でした。 脇役も、蟹江敬三、白石加代子、それから伊勢志摩や江口のりこなど、「大人計画」をはじめとした劇団系の俳優さんが沢山出ていて豪華です。 ---------------------------------------------------------- 先週もお伝えした「ミューズ シネマ・セレクション 世界が注目する日本映画たちPartⅧ」では3本をチョイス。 桃井かおり『無花果の顔』(2006年) 監督の桃井かおりが来場するため、とても人が入っていた。私もそのミーハーな客のひとりだったが想像以上に凝った作品だった。ストーリーは家族の日常がだんだんに変化していくようすを静かに追っていくもので、そのため家でのシーンがとても多いのだが、部屋に置かれた調度品や服装の色や形が統一されていて、いい具合に派手派手しく非現実的で夢の中の様。夫婦役の桃井と石倉三郎がさすがに達者で、安心して見ていられた。娘役の山田花子は、関西弁が押さえられた結果妙にサバサバした口調のしゃべりになっていて面白かった。 上映後の監督のトークや質疑応答からも感じられたが、とにかく桃井氏はこの作品を作るのに強い思いを入れている。これまでに無いものを作りたい、という意気込みは、はたして本当に目新しいのかはよく分らないけれど、結果桃井かおりが画面にとても沢山出てきて話を引っ張っていくので、まるで北野武みたい・・・と思わないことも無かったが、不思議と嫌な感じはせず、ずっと楽しめた。桃井が食事を作るシーンが何度かあるのだが、どれも手際がよく美味しそうでお腹が空きました。 矢崎仁司『ストロベリーショートケイクス』(2006年) わたしはこういう、20~30代女子・一人暮らし・東京が舞台・群像もの、にとても弱い。過去にも石川寛『tokyo.sora』でわんわん泣いたことがあるくらいだ。(そんなに泣きのポイントはない映画なのに・・・。) そしてこれは原作が魚喃キリコであることから分るように、とても痛々しい。それぞれ性格の違う4人の女子が、いっしょうけんめい何とかもがきながら生きている。かなり辛いことも起こるのだけど、それでも、しばらくしてすくっと立ち上がる。えらい、えらいよ。そんな現実的な彼女たちに比べて、これは過分にわたしの偏った見方だろうけれど、出てくる男たちはその多くがずるく、うすっぺらい権力をふりかざし、何より気持ちが悪かった。自分の男嫌いを改めて再確認し、それから大事な女友達に連絡をとりたくなった、そんな作品でした。いらっしゃった矢崎監督はとても丁寧でキュートな方で、サインももらってしまいました。監督の『三月のライオン』も観たい。 山下敦弘『天然コケッコー』 実は前に一度観たのだが、私は山下監督作品の大ファンなので監督見たさにチケット購入。しかしやはり・・・・この作品はあんまり好きじゃない。原作通りの「大沢くん」「お父さん」の二人がどうにもこうにも苦手で、観ててイライラしてしまう。この作品の評価としてよく言われる、可愛く純情な青春ストーリーというのもピンとこない。だけども、同じ学校に通う子役達のハッとする上手さや、空の色の鮮やかさ、ドキドキするほどの長回しなど、監督らしさは健在で、全体的には結局は見ごたえあると思う。原作は途中で挫折してしまったので、今度再挑戦して最後まで読みきり、この作品に対しての自分の価値観をなんとか変えたいものです。 上映後の監督の話の中で、同年に公開された『天然コケッコー』と『松ヶ根乱射事件』はいっけん真反対のようでいて、撮影中、前者の時はできるだけ黒いことを考えまた厳しくやり、後者の時は逆になるたけ楽しく明るくなるよう監督は意識してがんばった、という話が興味深かった。つまり作品の持つ雰囲気にもっていかれることなく、ふり幅を減らして進めていくそのバランスのとり方が、プロだなぁ・・・と思いました。それから子役に対して怒鳴った後数日間悩む、というエピソードも素敵だった。 なつき
by ouraiza
| 2008-04-02 01:00
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