「雑司ヶ谷へ」 原田宗典
「雑司ヶ谷へ」 原田宗典_f0035084_4333998.jpg「雑司ヶ谷へ」 原田宗典_f0035084_4331362.jpg原田宗典著
『優しくって少し ばか』 集英社
単行本 初版 S61
文庫  初版 H2
6つの中短篇 第一作品集



<雑司ヶ谷へ行きたい、と比呂美は言った。>

<「そうそう。カフーとか、いろんな人のお墓があっておもしろいって、あなた教えてくれたじゃないの」>

<ぼくは比呂美の横に立って、目白から池袋にかけての街並みを見渡した。階数は四階だが、ちょっとした高台に建っているので、けっこう遠くまで見通せる。小さめのビルやマンションが互いに覆いかぶさるようにして建ち並び、まるで立体パズルのようだ。そのパズルの中心から、サンシャイン60ビルが高く突き出ている。淋しそうな姿だ、と眺める度に思う。高さも大きさも圧倒的すぎるのだ。気の優しいフランケンシュタインが底意地の悪い小学生に囲まれ、嫌というほどむこうずねを蹴とばされている……そんな感じだ。>

<東池袋にあるその寺院には、ぼくと比呂美の子供が眠っていた。二週間前、むりやりこの世に掻き出して殺してしまったぼくらの子供が。>

M寺は東池袋にある。雑司ヶ谷行きを提案される二日前、主人公はひとりで高田馬場から山手線で池袋に行き、東池袋のM寺を訪れる。

<だいたい池袋という街自体がぼくは嫌いだった。駅前こそ飾り立ててはいるものの、コーヒーカップでワインをがぶ飲みするような無神経さが、あちこちで鼻につく。>

面影橋から都電(<濃い黄色の塊>)に乗り雑司ヶ谷へ向かう。車内の様子。

M寺への道程(池袋駅から)
・池袋の東口から、大通りをまっすぐに歩く。
・駅前のロータリーから次の交差点まで、歩行者天国になっている。
・サンシャイン60へ曲がる交差点で歩行者天国は跡切れ、急に人影がまばらになった。
・おそらく大通りの右側だろうとぼくは踏んでいた。左側には、サンシャイン60に向けてオフィス街が広がっているからだ。しばらく歩いてから適当な角を右折する。曲がりしなに路地の先を見遣ると、ちょっとした緑が目についた。寺院の雰囲気がしないでもない。
・古ぼけた寺院の……伽藍だった。
・M寺ではなかった。違う寺院の名前が書いてある。
・背の高い樹が風に揺すられて、川の流れのような音を立てていた。その音に沿って歩き、右手に続いていた白壁が切れた所でまた立ち止まる。十字路の角に住民用の掲示板があり、付近の地図が示されている。
・その中にM寺の名前はなかった。しかもその地図は現在位置が書き込まれてない
・あたりを見回す。人通りはほとんどない。細い通りの向こうからここまで、風が一直線に吹き抜けてくる。道の左側に小さな花屋。
・花屋に背を向け、当てずっぽうに歩き出す。
・退屈な店の並ぶ商店街が続き、道は二叉に分かれた。右の路地を行くと、すぐに行き止まりになった。ごく普通の二階家だ。畳二帖ほどの庭に雑多な洗濯物が揺れている。きびすを返して二叉まで戻り、今度は左へ行ってみる。路地の両側に民家やアパートがびっしり建ち並び、見るだけで息苦しい。弓なりにひん曲がって、すぐ先でT字路になった。
・T字路を右へ。両側にブロック塀が続く。右側は、たぶん幼稚園。
・道なりにしばらく歩いてから、二、三の角を折れた時点で、ぼくは駅の方角が分からなくなっていた。
・やがてゆるい下り坂になり、鋭角に左へ曲がると、突然森のような場所に出た。アスファルトはそこで切れ、長い石段が続いている。公園だろうか。
・石段を下りながら、ぼくは徐々に神妙な気持になっていった。視界が広がるにつれ、ここだという予感がしてきたのだ。
・下り切って見回すと、案の定寺院の境内だった。背の高い木々に隠れるように、左手に古びた本堂が見える。その脇に、こぢんまりとした庫裡と、挑むような高さの真新しい仏塔……。
・仏塔のもとに立札が見える。近付いて確かめると昭和初期に焼失したものをつい最近再建した、というような内容だった。そして末尾に″M寺″とある。
・視線を上げると、墓地を囲うブロック塀の向うに民家の屋根が続き、その果てにサンシャイン60が突き出している。
by ouraiza | 2002-01-01 00:05 | メモ/雑司が谷の本 | Comments(0)
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