『ピューリファイ、ピューリファイ! 藤井貞和の詩』
1990年 初版 書肆山田
初出『現代詩手帖』1988/1
元鬼子母神を出て
鬼の母と鬼の子とを見掛けたよ、なんどか。
そらの大銀杏から降り立ったふたりの姿がね、
夜目にはっきりと見えました。
鬼の母と鬼の子。
鬼の母は、
つい道路を隔てた24時間営業のスーパーに来て、
買い物をしていた。
また引き返して鬼子母神の境内へ消えて行ったのをあまりにもあざやかに見ました。
深夜になると遊ぶ鬼の子に、
わたしは、
ふと心の通う気がして、
すぐと思いとどまります。
雑司ヶ谷小学校裏を通り、
このあたりまで来ると、
ほっと安らぎのような感情が、
来るようです、でも、
いくたりもの人を喪った一年が過ぎ、
また新年を迎えるのですから、
無常だよ。
心のなかでだれかが、何かが叫ぶ、無常だよ。
<中略>
だが、祭りの日には、
深夜をかけて、
太鼓が不眠の町に、
結界が切れたと告げてまわる。
われわれの鬼の母と鬼の子とふたり、
鬼子母神駅から、
さいごの都電に乗って、
行くのが見えます。
わたしは、
岡島さんのお店の二階から、
鬼の母、鬼の子を見送って、
この世の窓を閉める。
おなじ豊島区内に住む阿部岩夫さんは、
ここの鬼子母神に、
子の安産祈願のたびに、
訪れるのだそうです。
しかし、鬼子母神が生まれたという、
もう一つのお社が、
護国寺の近くにあるとは、
知らなかったというので、
行ってみると、
三角の井戸があり、
祭りの燃えるように白い作り物が幾十となく、
そこから出て行くところでした。
