「墓」(章)
一
雪が降る。
雑司が谷の墓地では、
新しい墓も、古い墓も
大きい墓も、小さい墓も
うちの信の墓も、隣りにある同じ日になくなつた幼児の墓も
みんなこの雪を被つたろう。
墓守よ、箒をおいてお呉れ、
そのまゝで、おゝ、そのまゝで美しい日の照るように。
九
姉よ。池袋を過ぎるときは
車の車窓を開いて
雑司ヶ谷の冬木の杜へ目をやつて下さい。
そこには、貴女の愛してくれた信が
喪章のついた花環のなかから
小さな顔をあげて
信の懐かしいお祖父さんお祖母さんに遇つて来た貴女を迎へてゐます。
姉よ。その時、信と一言呼んでやつて下さい。
『小草』 初版
著/金澤甚衛・金澤まつ子
大正8年7月11日印刷 大正8年7月16日発行 白水社

『小草』 再版
著/金澤甚衛・金澤まつ子
大正8年7月11日印刷 大正8年12月16日発行 再版 白水社

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小沼丹「枇杷」