梁    せと
 「書留」を受け取ることが難しい。午前中は昏倒していて以後家にいないしインターホンは壊れている。ポストを見ない期間もある。ああ書留。いつもつまずいている。

5月8日月曜日。
 溜まった業務を片付けたく定休日の無約束営業。開店して諸事。
 書き出したやることリストを一つずつ消していく。支払い、市場準備、在庫の整理、お預かり買い取りのお客様へお支払い、連絡など。
 溜めるとややこしいことになりがちなブツ類を仕分け、整理、収納。

 最近廃テンションで休める時間が少なく悲しく、苦手な車の運転を連日しており、明日の非番がとても嬉しかったので硯屋さんで小打ち上げ。シメサバおいしい。

5月9日火曜日。
 休みの非番だが午後から市場に出品へ。あえてバカンス気分でゆっくり動く。
 自転車の後輪のスポークが2本多分経年劣化で折れ、かつパンク。バイシクルサナエさんへ押していくがあいにくのお休み。

 夜、来年版『名画座手帳』の会議を喫茶店伯爵にて。普段営業中の店の番台を避けて会議をする場合に利用しているベローチェには無かった生ビールがある。ある枠組みが決定に近づくが、作業量も増えることで、どうなるか。部数の問題、など。
 ふと気付くとまたスマホを失くしている。会議後にしばらく店で捜索して見つけ、無い無いと騒いで代理で探してもらった数人に見つけたことを報告をするのにこのスマホの写真を撮ろうと思ったが、そうか、スマホのカメラでスマホ本体の写真は撮れないぞ、と気づいて戦慄した。

5月10日水曜日。
 非番だが午後店に行き父親関連のデータ作成。心配が続く運送費の問題によき手が打てるかどうか。
 夕方、ルリュールの市民講座を受講していた時のT先生が店に来てくださり、お菓子をいただくなど。以前趣味で家庭内製本をなさっていたかたのご家族から、その道で役立つようなら差し上げたい、と言われたままその機会を得られなかった革梳きナイフや目打ちやヘラなどの小さな諸道具をお見せすることができ、保管体制を崩して先に進むことができてよかった。

 夜、隣区のお知り合い宅へ出張買い取りお預かりへ。めずらしく道が空いていて詰まりの無い道中。小さめの段ボール箱14個をお預かりする。

 映画「隣人は静かに笑う」を観る。とっても齟齬がなく観やすく面白いのだが徹底した反カタルシスに驚く。面白いのだが植え付けられた腹痛が酷くなる一方な場合それを面白いと言うものかどうか不思議。

5月11日木曜日。
 このところ家のwi-fiが途切れ途切れで不調だったのだが、コンセントの抜き差しを繰り返すうちに、いつもはランプが灯るはずの機械がまったく信号を発しなくなり、ついにまったくインターネットに繋がらなくなった。調べるとエアマックエクスプレスという機器で、2018年にアップルは製造を中止してしまっている。

 開店して諸事。午後早くから雨予報なので降ってきてから慌てない事前防衛角だけ出したカタツムリシフトで屋外に棚を配置。
 やるべきことをリスト化して一つずつ消していこうとするが、気重なメール、電話連絡に時間がかかって進まず。ため息をついているばかりのぼくを傍目に店員ノムが必要事項を進めてくれた。加湿器の掃除片付け、FIをD(フィニッシュインを出す)、MIPをCしてPでD(まだ拭いていない店内用をクリーンして出す)、など。しかし2つの大事な連絡事項を済ますことができて結果はどうあれ安堵。
 問い合わせをさせていただいていた太平洋美術会さんから、父親の入学願書が保管されていたというとても嬉しいお知らせをいただく。提出日は1963(昭和38)年1月11日。保証人は祖父。ご協力いただきついに判明。

 ヤマダラビにて店員さんにエアマックエクスプレスを見せながら家のネット環境をどうしたらよいか相談する。インターネットのためには「モデム」と「ルーター」という2台の機器が必要で、エアマックエクスプレスは「ルーター」の役目を負っていたらしい。店員さんに優しく丁寧に教えていただき新しい「ルーター」を購入。

 夜、数日間台所を工事中で ムトさんのお母様、鳥常、とても美味しい。近隣における「水もれ甲介」撮影時のお話など。

 ルーター設置にトライ。ユーザーネームという項目がさっぱりわからず先に進めない。自分と現行世界との噛み合わせの悪さを痛感しつつ、腹立ちや諦めを通り越してあきれたような気分でネットが通じないまま放擲することにする。こんなことをスッスとできる人がこの世にいるのか。いやしかし、1998年ごろ、出張買い取りを手伝うため助手席に座って「道案内?地図見るの苦手なんです~」とへらへら言ったぼくに当時の雇い主である社長は「苦手なら苦手じゃなくなるように失敗してもいいから今すぐやれ!」と応じてくれて、まったくだ、とハッとした瞬間のことを思い出す。インターネットシステムのことなんてとっても苦手だ。しかし何もしなければずっと苦手なままだ。うぬ。明日がんばろう。

5月12日金曜日。
 午前中、新しい「ルーター」の設置に再トライ。わかったのは通信会社がNTT東日本で、プロバイダーというものがOCNという会社だということ。この世には通信会社があってプロバイダーがあってモデムがあってルーターがあって。これらを脳内でわかりやすく何かに喩えて整理したいのだができない。野球場がある(神宮球場/通信会社)。主催球団がある(ヤクルトスワローズ/プロバイダー)。守備側(ヤクルトスワローズ/モデム)と攻撃側(阪神タイガース/ルーター)がある。というような。
 プロバイダーを決定した当時の契約書が入ったOCNの封筒を探し回って、ついに本棚の隅の隅に発見。中の書類から呪文ようなアルファベットの羅列であるユーザー名とパスワードを知る。開通したら「開通成功!」と大きな文字が出る、と解説書にあったのに、「success」と画面の端に小さく表示された。

 開店して急いで諸事。午後早くに店を出て日暮里・太平洋美術会さんをお訪ねする。問い合わせをさせていただいていた父親の入学願書がありました、とお知らせをいただいていて、拝見させていただく。入学願書は戦前のものは焼失、以後もところどころ抜けがあったり、とのことで、残っていたのは本当に幸運。職員のMさんから太平洋美術会(何度か名称が変更されていて父親の入学当時、1963年は「太平洋美術学校」)の歴史についてお伺いしたり、父も通っていた彫刻室や絵画室を見学させていただく。Mさんの学校史を楽しく研究していらっしゃるご様子に胸を打たれる。父は美術を学び始めた当初、グラフィックデザイナーのような職業をかんがえていてこの学校に入学後に彫刻へ志向が傾いていった、ということなのだが、確かに願書には所属先が「絵画部」とあった。全ての文字が祖父の直筆で、18歳の父の肖像写真も初めて見るものだった。太平洋美術会は、前身の1889(明治22)年に発足した「明治美術会」も含めると、途中戦災による休校時期もあったものの135年もの歴史があり、なんというか、その雰囲気、醸される空気がとても素敵だった。父のアルバムに遺されていた、多分太平洋美術学校のアトリエ内だろうと思われる1枚の写真の背景に写っていた梁や窓が、そこにあった。父のアルバムをまとめた映像に使わせていただこうと動画を撮らせていただくなど。
 彫刻家とその家族、というものがとても少ない、ということは常々感じてはいるのだが、それを格別寂しいとか孤独だとか意識をしたことは無かった。ところが太平洋美術会さんの彫刻室や絵画室、事務室に飾られた彫刻家たちの凄い迫力のデッサンの前に立っていたら、あれ、ここにはなにか、他では感じないとても親密で優しい霊がいる、という心強い思いが沸き起こった。
(画像内、父は後ろ)
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 夕方店に戻り店員ノムと番を交代。
 編集部朝さんIさんと来年版『名画座手帳』の軽い会議。新機軸によって加速するであろう大変さについて想いを巡らせる。

5月13日土曜日。
 開店して諸事。午後早くからずっと雨。
 なかなか受け取れない「書留」を再配達していただく段取りやその他連絡事項が多数。作業に集中できずしきりに茫然。
 防犯ミラーを売り物ではないかと尋ねる多分中国の学生さんが可笑しい。
 「”野球と本”ってくくりおもしれえぇ~なんでなんすかぁ」と尋ねる男女の画学生さん。その点にお客様から気付いていただいたのは初めてで、そのただ偶然そうなってしまったという馴れ初めをお伝えする、など。

 花火の本体はあるのにライターで火をつけようとすると電話が鳴る日。もしくは、打ち上げ花火に点火して打ち上がるのに夜空の下に蓋があって大輪の花を開かせる前に火種が蓋にぶつかって墜落する日。川底をぬめりと徘徊するナマズのような日。

 閉店後、これではいけない、と急な危機感に押され、番台前にぶら下げていた手拭いサンプルを天井に新たなフックを設置して移動、名画座手帳の幟を撤去。大きな変化をしたいのかもしれない。

 夜、映画「葛城事件」を観る。とても恐ろしいすぐそこにいるデビルが提出されている気がする。究極的にそのデビルはどこから生まれたのか。ツインピークスにおけるブラックロッジを想起。とても面白かった。

5月14日日曜日。
 開店して諸事。予報では午後に止むはずの小雨が閉店まで断続的に降る。
 やることリストを作って一つずつ消していく。先日お預かりした14箱の査定。番台上大山の値段つけ。周辺イベント時用の屋外向け中山の値段つけ、収納など。

 夕方から閉店後まで、丸まった旧作洋画ポスター約100枚を逆に丸めてまっすぐに平す作業をずっと。池袋人生坐、目白白鳥座などの館名を見る。
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by ouraiza | 2023-05-10 13:24 | Comments(0)
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