P級    せと
1月30日月曜日。
 定休日の臨時営業はせず休み。窓から朝日が差し込むまで店員ノムの手伝いで「名画座かんぺ映画大賞2022」のエントリー整理をしていたので午後遅くに起きる。なにかもっとうまい方法があるはずだがなんだろう、しかし方法があっても日々にとりまぎれて事前準備はするりと抜け落ち難しいだろう、と思う。

 夜、店にて発送などの諸事。
 目白駅前まで散歩をしてとても驚いた。駅前広場に目白通りを渡ることのできる信号付きの横断歩道ができている。とても便利な改良。
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 友人から宴の誘いがラインであり、ちょっと予定を調べて後日報告します、とうっかり間違えて店員ノムに返してしまう。気付いて直後にノムに説明しようと作ったメッセージ、あ、めんごめんご間違えました、を友人に送っている。ということを友人に説明した。

1月31日火曜日。
 休み。
 「名画座かんぺ映画大賞2022」の記事作りの続きをずっと。macのメモ帳には「置換」というすごい機能があることを初めて知った。例えば「星」という語句を「★星」に置換したら文面の全ての星の前に★が付く。なんたることだ。

 夜、YouTubeを観ていて、「ドレッシング」というネーミングがとても気になってくる。和製英語かと思ったら違う。正式名称は「サラダドレッシング Salad dressing」。略して「ドレッシング」。軽検索によると語源はやはり装飾のドレス。敷衍して、なにかに味をつけることやそんな塩梅に持っていくこと、「〜調にする、なる」ことのいろいろに使えるのではと思う。例えば、山が秋になって紅葉をドレッシングする、など。猫のげろを踏むという悲しさのドレッシング。演出する、傾向を持たせる、ふりをする。

 映画「インファナル・アフェア」を途中まで観る。
 「名画座かんぺ映画大賞2022」往来座地下版が完成、掲載。

2月1日水曜日。
 休み。半日虚脱しながらYouTube徘徊。ビリヤードの女性プロ、フィリピンのチェスカ・センテノ選手がすごく早打ちで面白い。
 夕方に店へ。ほんの少し諸事をしてから極ご近所様へ出張買い取りの下見へ。教育系、と言っても実用教育系。事前にお伝えしていたが引き取りはできない潮流だった。

 ムトさんがヤマダラビにて眼鏡を新調するのについて行く。目白至近の雑司が谷ネイティブのムトさんによると、目白駅前には歩道橋があって、その上から新宿方面の夜景がきれいに見えた、とのこと。後で検索してみると画像もあった勝手ながらリンク<https://www.kawamura.ac.jp/cyu-kou/2014/11/18/1863/><http://warpal.sakura.ne.jp/yamanote/12mejiro/frame-mejiro.html 下方>。なんと、まったく知らなかった。今のトラッド目白以前がコマースビル、その以前が小さなお店がひしめくマーケットだったことは聞いたことがあり、そのマーケット内の詳細地図、チラシなどを見てみたい。
 ヤマダラビで大量のプラモデルとフィギュアを凝視し続けてふと気づくと立ちくらみ。

 夜、映画「運び屋」を観る。「グラン・トリノ」が鈍器になった感じ。

2月2日木曜日。
 開店して諸事、店員ノムが『名画座かんぺ』最新号の配布のため夜までソロ番。番台上の中山のネット入力を進めるが諸事の小波に時々さらわれて捗々しい進捗無し。

 ハヤカワ文庫の『スローターハウス5』を番台にお持ちになり、これはシリーズの5番目の本ってことすか?とターミネーター2におけるエドワード・ファーロングのようなハーフのイケメンお兄さんがお尋ねになる。確かに第5巻に見える!と驚きつつご説明し、ひとまずお買い上げいただいた。すると、英語で小説読んでたんですけど最近日本語の小説にハマり始めてて〜なんか今ちょー恋愛小説読みたいんすけどなんかないすか、とのこと。ああすみません‥‥ぼくはラブストーリーが滅法苦手でほとんど読んだことなくて‥‥うーんと、ちなみに、ですけど、どんな感じの恋愛ものがいいですか?と応じると、彼はそのイケメンで渋い表情を作り、「クーーーッ!!てくるやつ」、と仰った。可笑しかった。

 英訳の課題を店に持ってくるご近所Kさんの今日の問い。「私はいなかの大工の息子です」。えーーー、アイアムアサンオブアカーペンターアットカントリーサイド。アとかザの付け方がわからない。後で調べて「いなか」が「カントリーサイド」であながち間違いではなさそうでよかった。

 夜、新しい会社にお就きになったIさんからその新入生のような独特な感覚をお聞きする、など。そういう環境の新鮮さというのは古本屋には程遠く眩しい。
 閉店後、1日の目標への至らなさが無性に癪だったので残業をして、リフレッシュ後に余裕を持ってやったほうがいい最終段階は残してしまったが、終わらせる。

2月3日金曜日。
 開店して諸事。
 諸事を連ねているうちに目標の中山に手を伸ばす気になれず外が暗くなる。夕方からやっと、番台上に積まれてから1年以上になるだろう黒めで商品化に調査が必要な癖の強い本の中山に着手し始める。この山がなくなればするすると流れが良くなる気がする。

 今春大学卒業後に遠方へ移住予定の友人Kさんがムトさんと同じ誕生日だと判り驚愕。Kさんのメールアドレスの片鱗から、もしや、と思ってはいたのだった。移住先に持って行くべき本の量に悩んでいらっしゃる。お薦めする本がいつも同じ(多分もう20年くらい)で申し訳なく、自分の不勉強を反省する。どうしてぼくは横光利一を読むぞ、と意気込んでいたのに読んでいないのか、ああ。

 永世キング生卵以外に納豆にマッチする具材は何かを探す、納豆バディ選手権について次回(前回はKさんに教わった練りワサビ。とても美味しかった。)候補アイデアをご近所のSさんからいただいた。ヨーグルト。

2月4日土曜日。
 開店して諸事。
 番台に根を張った長期保留物商品化の続き。もう仕入先も忘れていて、はっと思い出して懐かしんだりしているうちに外が暗くなる。薄いものが多いので山はなかなか低くなってくれない。

「かしめ」、「かしめる」という語句についてめずらしい言葉だ、と話していると、友人牛さんが表情を懸命に歪めてしわを寄せ「これのことでしょ?」と言い、「それは『しかめる』だよ!」となる。

 ビリヤードにはだいたい熟練度に応じてC級、B級、A級、プロ、と自分の位置を示す指標があり、正直に自分をあてはめるとそこからはみ出し、やっとY級くらい、だと思う。夜、立ち寄ってくれたミヤモトくんが植木職人さんになりもう1年半も経つ、ということに驚きつつ話の流れでぼくはまあビリヤードのY級だけど、A〜Zで自己判断してミヤモトくんは植木職人何級?と尋ねてみた。ミヤモトくんは少しかんがえてからいつもの優しい小声で「ん‥‥P級です。」と仰った。この「ピーキュウ」という響きのなんとキュートでフォギー(わかったようなわからないようなちょうどいい霧の濃さ)なことか。なんだかその「P級」という調べにひどく感動して、ぼくも使わせていただく許可をもらった。これからはP級でいくぞ、と決意。ミヤモトくんは「原田芳雄の本は『B級パラダイス』‥‥だからこちらはP級パラダイスで‥‥うふ」とも言っていた。小学校の授業でミシンを使う自由課題があり、ミヤモトくんは母親のストッキングを使って虫網を作った、とのことだった。

 夜、ムトさんがまったく聴いたことのない歌をギターで練習しており、YouTubeで聴いてとても素晴らしい曲だな、と思った。松田聖子「制服」。軽検索によるとシングル「赤いスイートピー」のB面で、作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂(松任谷由実)。いつかBOEESの課題曲にしたい。

2月5日日曜日。
 開店して諸事。
 黒めで薄めなものを調べながら値段をつけたり商品化をやめたり先延ばししたり、昨日の中山開墾の続き。

 店員ノムは夕方に早退。まだまだ作業が終わらないし、ま、明日でいっかー、と缶ビールを空けようとしていた19時5分くらい。ブレーキ音と車同士がぶつかる衝突音が外から聞こえ、番台から入口ドアを透かして外を見た瞬間、硬いもの、というより細かな機械部品の集合体が潰れる音、メキメキとガシャンとズシンが一斉に混合した猛烈に大きなメガズンという衝突音と同時に、角地である店のその角に建つコンクリートの円い柱を中心にして地球の軸がずれたような、目の錯覚のような揺れが起きる。この世の終わりか!と思った。
 外がどれだけ壊れたんだろう、と急ぎつつ恐る恐る外に出ると、円柱にバンが突っ込んで前面が大破、部品が周囲に飛び散っている。もう1台は店入り口前のガードレールに突っ込み横断禁止の標識を斜めに曲げている。
 表面的には死傷者無し(柱に突っ込んだ運転手さんは救急車に運ばれたがそのご様子からなんらかのお怪我はなさっているかもしれない)。歩道を走っていた一人のラントレーニングお兄さんがギリギリでかわしてそのまま行った、と目撃なさった方が仰っていた。「埼玉から出てきて池袋には滅多に来ないんですが池袋っていつもこんな感じですか?」と事故直後にご来店くださったお客様。こんな時にすみません、とさらに別のお客様がウェブ掲載商品をお探しにいらっしゃったが、よりによってこんな時に、その商品は在庫切れ。申し訳なさと衝撃へのドキドキとが同居して絵の具を調合しすぎた変な色のような心境。すぐにでも早仕舞いしたく、CLOSEの看板を手にするとお客様がいらっしゃり、あれ?と看板を戻す。
 いつもそこに悠々と立ち、まさに今日店とぼくを護ってくれた円柱に対してしみじみ敬虔な気持ちが湧き出る。車の大破に比べて、少し傷がついただけの円柱のこともなげないつもとほとんど変わらぬ姿がにわかには信じ難い。そしてその円柱の小さな傷以外、本や本棚は一切傷ついていないのだ。いやはやこの円柱すげえ、なんというか守り神というかそういうもののことを‥‥と加護を与えてくれる神聖な柱を一言で表そうと悩んでいたら、事故後に店に来たムトさんが「おんばしらだ!」と言った。「おんばしら!おんばしら様だ!」とぼくも続けた。「これはおんばしら様ですよ!」と事情説明に来てくださった警察官さんに訴えると苦笑なさっていた。しかしまったく、大きな凶事が無かったのでこんな感興にもなれるのだろう。
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 翌日も御柱様は天を突く。
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by ouraiza | 2023-02-06 22:56 | Comments(0)
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