シオン    せと
 毎年、このぐらい少量の鼻水なら他人からは見えないだろうと予想しても実は全部見えている、ということに驚くのだが、日常的にマスクをつけている昨今、ほんとに鼻水がバレないようになった。

3月7日月曜日。

 佐久間宜行さんのYouTubeチャンネルがおもしろく、2020年ごろからのテレビ界からのタレントも含めた放送専門家のYouTubeへの参入に新たな1ページが開かれた気がする。どうしてもテレビかYouTubeか、どちらかの風味に傾いて感じられるものが多い気がしていたが、NOBROCK TVでは双方の良いところが調度よく融合されているように思える。YouTube的ミニマルな企画をTV的企画実行力を持って行う、というか。

 ぐずぐずとYouTube徘徊後に出勤して定休日の忍者営業。今日はツイッターで告知もしたので忍者ではないか。

 普段なら義務として行う手近な商品の処理をあえて無視して、しかしやりたければやってもよく、基本的になにもせずのんびりする一日、ということにする。この番をなんと呼ぼう。縁側月見番。か。

 目標を定めず芸能関連雑誌などにゆっくり値段付け。

 小学館の『写楽』という雑誌。今までずっと「シャラク」だと思っていた。表紙の隅にタイトルがローマ字で書かれている。「SHAGAKU」。シャガク、、、、そうだったのか。

3月8日火曜日。

 テレビのニュースで観たウクライナのゼレンスキー大統領の言葉が印象深い。「月曜日はヘビーな日だが、戦争中の今は毎日が月曜日のようだ」。

 休み。廃す。

 ふと思いついて動画作りを始める。2020年3月に、後に中止になるライブイベントに備えてBOEESがスタジオで練習していた音源が残っており、その中の新曲に映像を付けたもの。BOOTHという通販サイトにて、無料で個人使用可能なGIF動画ファイルを見つけ、動いているGIF動画をさらに画面内で動かしてみたら可能だったのでとても嬉しい。しかしMacのプレゼンテーション作成ソフトkeynote上から動画ファイルとして書き出してみると微妙な点にバグが出てしまう。作ったものがその通り現れないことは辛く、悩み続け暗澹。

 夜、マノジ・ナイト・シャマラン監督の映画「VISIT」を観る。

3月9日水曜日。

休み。廃す。NOBROCK TVなどYouTubeを徘徊、断続的に眠りながら地下を書き、たまに動画作り。

夕方散歩に出て、目白駅の裏側の住宅街へ。目白豊坂稲荷神社で神妙を装って手を合わせる。サイトに「高田総鎮守氷川神社の兼務神社」とあり、現在はなにか出張所のようなものだろうと思う。社域を囲む石柱を眺めていた同行のムトさんが、「おばさんちの名前があった!」と驚いていた。他の石柱には、目白周辺の古い商店の名前が並んでおり、とても面白い史料だった。

未踏の細道を歩いているとノムから電話があり、『名画座手帳』の会議をする予定を失念していたことに気付く。完全なる休み惚け。店に急行して会議。大事な方向性が決定する。

3月10日木曜日。

 開店して諸事。

 午後早めに出て、予備校生時代から店に来てくださっていた大学生の友人と池袋散歩。必ず果たしたいと祈念していたコ本やさん訪問に付き合っていただく。コ本やさんはとても楽しかった。美術、文芸書、独自刊行物の充実。広いイベント空間。かっこいい。未読の三浦哲郎、絲山秋子、青柳菜摘さんの詩集を購入。コ本やさんでは『古書ノ香』という、「『本とは何か』を主題にして、江戸初期からの源氏香に倣い、香りを聞きわける遊びの組香に着想を得た参加型パフォーマンス」をなさっており、店番をしていらっしゃったダツオさんと「b-Spo」ですね、などどと笑いあう。

 池袋大橋の欄干に佇んで、地上に列をなす線路を役者が走って横切る逃亡劇についての空想を皆で楽しんでから、居酒屋サン浜名さんへ。勝手に指定文化財、サン浜名さんのハムエッグを久しぶりにいただけて嬉しい。「舎人公園の大きさ」「しめ鯖に醤油は必要か」など。若き友人から教わることがたくさんある。帰路、セイユーに立ち寄り、ポン酢好きな彼にムトさんが推している「馬路村のポン酢」をプレゼントする。
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3月11日金曜日。

 開店して諸事。

 14時46分に店員ノムが知らせてくれて黙祷。窓から見える外の明るさ、街路樹の風による揺れ方が11年前の今日ととても似ている気がした。
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 ずっと気掛かりだった、旧版三島由紀夫全集の元パラ(グラシン紙)が経年によって半革装の本体の背の革にくっついてしまっている問題に着手する。このグラシン紙が革にくっつくというのは三島由紀夫全集に限らずにあることで、たいていはそのままか、バリっと引き剥がして「グラシン紙剥離痕あり」などの注意書きとともに商品化する。しかしこの旧版三島由紀夫全集が、全巻揃いで月報揃い(後にちゃんと確認したら1冊無かった)で状態良好、もちろん特装版や新しい決定版よりも断然安いのだがその黒い佇まいが素敵なナイスセット。グラシン紙と革の膠着状態を放置、もしくは破壊するにはどうにも忍びなく、決定的な対処法を探ってみようと決める。もしそれが成功すれば面白いので、作業過程の動画も撮る。

 重曹を水に溶かして重曹水を作る→グラシン紙の革にくっついている部分を重曹水で湿らせる→ドライヤーで乾かす→ペりペりっと気持ちよく剥がれる。というのが理想の筋立てだったのだが、剥がれないこともない程度にゆっくり剥がれ、ところどころ剥がれずに残滓を残す結果となった。非常に微妙。

 しばらく悩んで、これ以上問題に手を付けず「革とグラシン紙の張り付き、または剥離痕あり」と注意書きをする方向性にしよう、と決断したころに「あれー!」と作業を手伝ってくれていた店員ノムから声が上がった。とりあえず剥がせる部分だけ剥がし、残った部分を、ただ水で濡らして絞った雑巾でゆっくり優しくこすっていたらその残ったグラシン紙がポロポロと取れていく、という一番シンプルな大発見をノムがしていた。

 夜、お立ち寄りくださった手帳編集部の朝さんに、「グラシン紙が重曹によってどう変化するか、実験してみたんですよ」などと先ほどの顛末をお話ししていたら、「『グラシンの手帖』ですね、、、」(生活道具実験企画の『暮しの手帖』!!)とぽつんと仰った。
 さらに話題が変わり、三島由紀夫『金閣寺』を読み終えたノムが次に水上勉『金閣炎上』に進もうと思ったが、その前に大長編『チボー家の人々』を読み始めてしまった。というところで朝さんが、「じゃあ、、、『金閣炎上』は、、、マッチボーケですね、、、、」と仰った。缶チューハイをもう一本おかわりすることにした。

3月12日土曜日。

 開店して諸事。

 毎週土曜日に7歳くらいの娘さんとご来店くださるノースカロライナ州御出身のご婦人が、旦那様が横須賀の米海軍に所属なさっていて、5月にはドイツに転居なさってしまうとのこと。次はフランスで、次は多分スペインで、娘が日本のことをちゃんと記憶できないことが忍びないわ、とおっしゃっていた。そんな冒険家みたいな生活を、他人の自転車のカゴは全てゴミ箱だと看做される池袋という暗い町から動けそうもないぼくはうらやましく思うが、それはそれで大変なことに違いない。

 いよいよやらねば、と覚悟を決めつつある去年入荷した大ダンボール30箱を開ける作業の準備のための、番台上の小さなものたちの商品化、片付け。予想外に時間がかかってしまい、夕方に準備完了。しかしこれから始めると閉店時に中途半端な進捗状況でモヤモヤする可能性が高く。作業スタートは明日からに延期。

 どこかで不買運動が起こっているのでは、というくらいネット販売のご注文が来ない。

 夜、先日若き友人から教わったイギリスのドラマ「Fleabag (フリーバッグ)」を観始める。これまでに観たことのない感覚で戸惑う。通底している不安感の説明は今後なされるだろうか。

3月13日日曜日。
 開店して諸事。
 未処理の本をしまっておける場所の大部分を占拠していたLサイズダンボール30箱を一気に出し、ひとつひとつ開けていく。90年代、00年代の美術批評、思想学術系の本のタイトルを目で追って判断をするうちに、大量にその中に含まれるカタカナ表記された用語のふわっとした意味のわからなさが胸に積み上がってきて目がくらみ、判断が揺らぎ始める。それら用語を音読しながら店員ノムに一部をメモしてもらった。これらの用語を理解しようと努めた季節が、確かにあった、かもしれない。今はもうほとんど分からない。この際ここで少しでも理解、いや理解には到底及ばないが、慣れのためのきっかけ作り、のために、軽検索によって短絡的に訳しながら挙げてみる。
 ・アフォーダンス(環境が動物に与える意味)・アポカリプス(黙示)・アポリア(解決できない難問)・アルケオロジー(フランス語の「考古学」)・イデー(観念)・イマージュ(「イメージ」のフランス語)・エクリチュール(書き言葉)・エスノグラフィー(行動観察調査)・オートポイエーシス(自己創出システム)・クリティーク(批評)・サバルタン(従属的社会集団)・タナトス(死神)・ディアスポラ(離散民族)・ディスタンクシオン(差異化)・テクトニクス(地球やその他惑星の主に岩石圏の動き)・トポフィリア(場所への愛)・ネオリベ(新自由主義)・プラトー(水平状態)・ヘゲモニー(覇権)・ポストモダン(近代の後)・ランドスケープ(景観)
 そして日本語で多く登場する「修辞学」がわからない。wikiによると「弁論・演説・説得の技術に関する学問分野。弁論術、雄弁術、説得術、レートリケー、レトリックともいう」とのこと。
 重いような痛いような圧を受けて頭がプラトー。
 1時間ほど残業をして仕分けが完了。残念ながら片付けはポストトゥデイに。
 
 夜、ドラマ「フリーバッグ」を観る。

by ouraiza | 2022-03-14 01:42 | Comments(0)
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