+++本はある瞬間、画用紙にもなる。本に無造作に描かれた落書きは、日常生活にくいこんだ本と人とのたくましい交わりを、思い起こさせます。+++

『柳瀬留治歌集 立山』昭和18年、朋文堂。入荷したときから表紙本体からはずれカバー各所破損、裏側半分無し、うぬぬ商品化は無理かな、と思いつつ表紙を繰るとなんとも絵心。細めの多分万年筆。刊行当時の持ち主の作品だとしたら(少なくとも1度古書店を経由した形跡あり)、昭和18年ある夜、ウォオオーンと空襲警報、読んでいたこの本をいったんぱたりと閉じ急いで裸電球を消す。ん、電球ってこんなだったっけ、手近な表紙を開き闇の中でペンをとる。発電について思いを馳せたのかもしれません。SとNの動力作動中な磁石、生きているようです。
せと

窪田空穂の序文より
~柳瀬君は、昔からの登山好きの一人で、好んで高山に登り、山の話を豊富にもつてゐる人でもある。~柳瀬君といふ人は、本来深い詩情をもつた人である。同時に一方には、可なり粗野なところももつてゐる。この詩情と粗野とは、時にはいみじく調和することもあり、時には反対に破綻を示すこともある。~
本文より2首
焚火跡一つ巌(いはほ)に遡行年月(そかうねんげつ)記せるがあり嬉しくて泣かゆ
我がザツクに吊れるコツプがゲラゲラと笑へりといひおどおどとせる