2016/4/16    のむのノミムメモ
グランピーキャット ぬいぐるみ
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grumpy【形容詞】気難しい、不機嫌な


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線消しの美学

古本屋に線引き本はつきものだ。
最近では、「痕跡本」というジャンルが確立されたりして、ありのままで、という向きもあろうが、大してドラマチックでもない線引き、消してありさえすればある程度の値段で売れる線引き本の線や書込みは、消す。
さてそこで、一旦「消す」という決定がなされた以上、パッと見、そこにかつて線があったとは思えないぐらいの完成度を目指さなくては嘘である。
線引き本の線を消す、という行為には、そもそも紙と鉛筆と消しゴム、という文房具界の三大アイテムが関与しており、誠に文房具的な行為といえよう。
まず、目の前にある線引き本の状況を見極めることからミッションが始まる。
1番大事なのは、頁の紙質とインクの状態、それから線を引いた人間の筆圧である。
新しい本で紙質もきめ細かく滑らかで、柔らかい芯で比較的浅く引かれた線ならば、もちろん綺麗に消える確率が高い。
古い本で紙質が荒かったり柔らかい紙だったりすると、単純に破れ易いし、線自体が紙の繊維の奥まで入り込んで、まず「痕跡無本」にするのは不可能である。その上、このタイプの本はインクも一緒に消えることが多い。
次に、消し方について。
線の向きと消しゴムをかける向きは同じに。
つまり、縦に引いてある線は縦に、横書きの本に横に引いてある線は横に消す。極論をいえば、文字の書込みの場合、文字は単純な線ではないため、完成度を高めるためにあらゆる向きから消しゴムをかける。例えば「に」という文字を消すなら、まず縦で「|」を消し、今度は横向きに「こ」部を消す、という具合に。
一度に消す線は1本のみ。
つまり、たとえ10行分10本の線引きであっても、斜め消しで横着してはならない。なぜならば、縦に引かれた線を斜めもしくは横に消すというのは、これは消しゴム学という領域に入ってきてしまうが、消すというプロセスの中で、まず墨をそれだけ広範囲に広げることになるため、最終的に痕跡無本にできない可能性が高い。加えて、線と線の間の「本文」に100%消しゴムを当てることとなり、インクが薄まる可能性もある。2行を追うもの1行をも消せズ。
ノドに消しカスを残さない。
せっかく綺麗に線が消されてあっても、ノドに消しゴムのカスが残っていては、痕跡無本失格。
ノドをギュッと開いて挟まり込んだどんな小さなカスも見逃さず、除去する。この時に注意しなければならないのは、線を消した後に出るカスは当然黒く、除去の仕方に気をつけないと、こびりついて汚してしまう恐れがあるということ。そのため、ノドの下から上に向かって、ふーっふーーっと息をかけて飛ばすのが1番安全。ただし、稀にノドを開き過ぎて背がパキっと行ってしまうことがある。最悪だ。このような手間や事態を極力省くため、熟練者は消す段階でカスがノドに入らないように注意して臨む。自分はカスを手前に飛ばす。つまり、カスをもろに浴びる。ライン・バスターズはカスで身体が汚れることを厭わない。使うのはビッグなmonoだ。カスがまとまるような消しゴムを使うことはあえてしない。大きな闘いの後、帰って洗濯しようとしてズボンの折った裾から消しカスがボロボロこぼれたときには労働者としての自分の姿に感動を禁じ得なかったものである。
ここまでの完成度を目指すと、線引きの程度にもよるが、1冊に約1時間かかることもままある。そして、さあ最後の一行・・
びりッ。
古本屋あるある。
by ouraiza | 2016-04-19 13:31 | ノミムメモ(土曜) | Comments(0)
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