長崎道踏切の新堀さん        せと
 部屋を片付けていたら出てきた小さな紙切れ。A4の四つ折り。どきっとした。新堀さんが作った時刻表だ。
 古書往来座が2004年に開店したころには、池袋の目白側と雑司が谷側をつなぐ、山手線(他)の線路を渡るための、今は無き「長崎道踏切」がまだあり、廃止される工事がされていた。今そこに歩道橋「花のはし」がかかっている。開店当初は西口に住んでいたので、ほぼ毎日、その踏切を渡った。
 詳しく思い出せないが、長い工事だったイメージがある。その踏切の前で赤い棒を持って警備、歩行者を誘導する係りの方々の中に、新堀さんがいた。とにかく長時間閉じたままの踏切だったから、警備の人が待っているひとと会話している姿をよくみかけた。ぼくも帰宅途中など、お疲れ様です、徹夜ですか、暑いっすね、など、世間話をさせてもらった。おかげで、新しい店作りに集中して絞った雑巾みたいになった脳が、ちょっと休めた。新堀さんは丸顔に眼鏡をかけ陽にやけた、いかにも温和で真面目そうなおにいさんだった。訊ねれば、この踏切が何分後に開くか、だいたい教えてくれた。
 台風の豪雨で目と耳が滝のなかにあるような日にも、レインコート仕立ての警備服で、新堀さんは踏切にいたものだ。
 ある日この紙片をくれた。新堀さんの、結晶だと思った。思ったが、言葉にはならない。この紙片がただならぬものであることを噛みしめた。
 踏切のわき、ぴかぴか光る蛍光の黄色の作業着を着た新堀さんの背中が、ザアザア降る雨の煙の向こうに浮かんでいる光景を思い出す。
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 ありがたきユーチューブ。長崎道踏切。

by ouraiza | 2011-07-27 15:04 | Comments(0)
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