『踏切趣味』筑摩書房 平成17年初版 所収
『彷書月刊』平成14年9月号 初出
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雑司ヶ谷霊園は、泉鏡花、永井荷風、夏目漱石、そうそうたるひとたちのお墓がある。管理事務所に行くと、案内図がもらえる。樹木保存の寄付をすると、わけてくれる。霊園のあらましと、地図、埋葬著名人一覧があって、六十六の墓碑案内。
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墓は、死んだひとのためのものと思っていた。なんにもいわない墓石の世話を熱心にするひとたちをみるうちに、墓はいきているひとのためにあるとわかる。
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泉鏡花の墓は、枯葉がつもり、墓前に植えられたあじさいがしおれている。せっかく来たから、花屋でほうきと水桶を借りてきて、蚊に刺されながら、掃除した。
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永井荷風の墓碑は、永井家の墓とお父さんの墓にはさまれている。まわりを垣根でかこんであって、南天、さるすべり、もみじが植えられ、りんどうの花が墓前に飾られていた。
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夏目漱石の墓は、ものすごくおおきかった。業務用の冷蔵庫ぐらいある。りっぱで、上から水がかけられない。水をかけられるのを嫌がっているように見える。戒名は、文献院古道漱石居士。
おすもうさんが塩をまくように水をひっかけたら、せみが鳴きはじめた。漱石の墓前で、今年はじめてせみの声をきいた。
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ひと目をひく、あかい墓があった。ジャズ評論家・いソノてルヲの名が刻まれている。
学生のとき、夏になると会っていたひとだった。バンドのコンテストに出場すると、きまって司会は、いソノさんだった。よく通る声で歯に衣きせぬ感想をいわれた。一九九九年四月二十一日に亡くなったと知った。
生前のすがたを知っているひとの墓にむきあうと、新しいしゃれた墓石は、居心地が悪そうだ。ひとに近い墓というのもある。
by ouraiza
| 2002-01-01 01:30
| メモ/雑司が谷の本
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