満月の思い出      せと
 一昨年のこと。
 店内の棚に永らくあり続ける本を、値下げして外の均一コーナーに出す。入荷したてのものを優先して配架したくて、その場所を作るために店内に長居しているものを均一に回す。そういうことはたまにある。当然下げたり、しぶしぶ下げたり。
 原田康子著、『満月』はたまにあるその間引き作業を、3年間ぐらいかいくぐり、「文芸 作家名順 は行」にあり続けた。数回棚から抜き、ながめ、均一行きを思いとどまった。ブックオフの100円コーナーで見つけ、みたこと無いな、珍しいな、と思い買ってきたものだが、その後古本まつりややはりブックオフでしょっちゅう目にした。下げるのを思いとどまった理由は、なんとなく、としか言いようが無い。強いて言えば以前勤めていた古本屋が、ほとんど棚の入れ替えをしない性質で、それはそれでいいところもある、とどこかで思っていたことが理由だろうか。
 ある日午前中の仕事で、また『満月』を棚から抜き、ながめ、戻した。そういう一冊があってもいいではないか、その時はもう、どうせならずっと、といたずらな気持ちですらあった。
 午後、40代ぐらいだろうか、ひとりの奥様が御来店なさるなりぼくのいる番台へ近づき、
「はらだやすこのまんげつってありますか?」
とお訊ねになった。即座に「あります」と応えた。
 お客様からの一冊の探求のお訊ねに、間髪入れずずばりと応えられることはまったくと言っていいほど無い。この時とあと一度(伊良子清白『孔雀舟』岩波文庫 あのときもとても驚いた)しか思い出せない。
 奥様が『満月』を探している理由を教えて下さった。
 北海道旅行から帰ってきた中学生の娘が興奮して「北海道の月はきれい」としゃべる。ふだんあまりしゃべらないのに、北海道の月のきれいさについてとても嬉しそうに話す。そのとき奥様は急に原田康子の『満月』を思い浮かべたそうだ。娘に読ませたくていてもたってもいられず、探しまわったらしい。「娘と月の話をしたい」と奥様はおっしゃった。
 北海道で見る月についてのくだりがあるのかどうか未だぼくは知らないのだが、売れるか売れないか、面白いか面白くないか、なにかそういう選択肢以外の本の在り方があるという当り前のことを意識した、印象深い売りものだった。



『満月』原田康子 昭和59年初版 朝日新聞社 四六判347頁
520円 販売中!!!!

帯文「最新長編 タブーは美しい恋の衣裳 北国・札幌の四季が彩る禁断の恋の顛末。満月の夜に何かが起こる!」
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by ouraiza | 2011-02-11 17:23 | Comments(0)
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