池袋あずま通り沿いの立ち食いそば屋さん、六花そば。もうすぐポイントカードが満了する。
券売機の前でふと佇む。後ろに人が並んで待つことは今まで一度もなかった。昼でも夜でもない午後三時。悩む時間はある。うん。今日、実行だ。
豚天(ぶたてん)シリーズがこの夏のキャンペーンとして50円下がっているのだ。店内の貼り紙には「キャンペーン終了時期はお知らせします」としか無い。ありがたい。いつも通り「豚天(そば・うどん)300円」と堂々と書かれたプラスチックのボタンを押す。チャコ。
さあ、ぜいたくだ。このあいだ見つけたのだ。「トッピングA 60円」を。一番下のボタンの列にはじめて手を伸ばす。人差し指を上から見る。チャコ。
2枚の件を券売機の口から取り出す。世の道理を複雑にしてしまった懺悔の気持ちを、くっきりゴシック体で印刷された300円と60円の文字が励ましてくれる。
常に開けっぱなしの自動ドアから店内に入ると厨房のお兄さんのシンクでなにかを洗いものをしている背中から小さくいらっしゃいませと聞こえる。お客さんは手前右に一人。内心狙っている右奥の台はあいている。入ってすぐの受け渡しカウンターで2枚の券を出す。
手の水をきりながら振り向いたお兄さんが券に手を伸ばす。
「うどんで」「冷たくて」「大盛り」「あと‥‥」「生卵」
それから毎日「豚天冷しうどん生卵入り」である。生卵の爆弾のスイッチをいつ押すか。とても大事な問題だ。最近は中盤までねばり、運よく生き伸びた白い麺と、温かいつゆより少し濃く作られた黒いつゆに、黄色い爆風をからめるのが好きだ。
『朝日新聞 1989・1/7(土)夕刊「天皇陛下崩御」
週刊朝日 1989・1/25臨時増刊「昭和逝く」』
セット 500円 販売中!!!!!売切れ
土曜日だったっけ。7日に始業していたのか、中学校の廊下をスリッパで走っていた時に校内放送があった記憶がある。全然違うかもしれない。