留置所への差し入れ、という本の出立がある。店が池袋西口にあった時には、池袋署が近く、週に一度はそうと予感させる買物があった。差し入れなんだけど何がいい?とお尋ねになる方もたくさんいた。マンガも多くあったので、スカッとしそうなセットものなどをお薦めした。アニキこういうんじゃないんだよなぁ。それぞれに小さな傾向が見え隠れする。冊数に制限があるらしく、3冊しかダメだったぜ、と報告をもらったこともあった。こっち、南池袋に移転し、昨日久しぶりに差し入れのお尋ねがあった。まず、句集、という指定をいただく。いろいろ出すうち、個人の句集でなく名句解説だとわかりはじめる。山本健吉『現代俳句』か飯田龍太の俳句鑑賞もの。季節ごとに分類されているというわけで飯田龍太に決まる。気持ちにぴたっとくるのがあるかも・・・・とつぶやかれた。他に東野圭吾を2冊。帯の「完全犯罪」という語句を心配しあう。ダチだったりアニキだったり子分だったり。想う。差し入れられる人が、どんな顔でその本を眺め、触れ、果たして喜ぶのか。本が贈られる。
せと
『夜明け前のさよなら』中野重治 昭和5年初版 改造社
背・表裏表紙にセロテープ痕 本文小シミ折れ跡 あり
2800円
『汽車の罐焚き』中野重治 昭和22年 細川書店
上製限定500部 墨書署名入り 付録「細川だより8」付き
扉に蔵印 函少割れあり 5250円
販売中!!!
『夜明け前のさよなら』には名編「鬼子母神のそばの家の人」が収められている。後年の文庫しか確認できないが、それは「鬼子母神そばの家の人」で、「の」が無くなっている。全集端本は「の」無しだった気がする。『文藝春秋』(昭和4年4月号)が初出で翌年の刊行だから、「の」は誕生時に付いていたのではなかろうか。転居したばかりの青年とその下宿に働く使用人、忙しい非合法活動時のほのかな間。読後、鬼子母神横を通りかかるこころもちが変わる。
『汽車の罐焚き』付録の小片「細川だより」には、見開きで「機関車名称図解」が載っている。解説も含め、本を作るうきうきがあふれている。一言引用。
「豪華本とは美しい書物の謂いではない。造本にひたむきになればなるほど、清潔な美しさ---素ぼくにかえつてくる。」

