2012/6/21       せと
 雑司ヶ谷霊園にある「まこちゃんのおはか」の模型。ジャングルブックスさんでの「雑司が谷撰集検討会議 2回め」に合わせ、紙粘土で作った。「まこちゃんのおはか」について、今のところ3編の文章がみつかった。菅原克己の詩「「雑司カ゛谷墓地の小さい墓」小沼丹の「枇杷」。浅見淵の「墓と愛情」。浅見淵の随筆について、はやくカテゴリ「メモ/雑司が谷の本」にまとめたいのだができていない。前回の会議で余吾育信さんから教わった大田南畝・蜀山人のことや、永井荷風『断腸亭日乗』のことも、まとめられていない。
 浅見淵は少なくとも5年、雑司が谷に住んでいたと記述がある。今は住所が目白になっている、坪田譲治邸の近くに一時期住んでいたようだ。「まこちゃんのおはか」についての記述がある「墓と愛情」以外にも、「鬼子母神附近」「目白界隈」(どちらも昭和10年)など、雑司が谷の情景描写がしっかりなされた面白い随筆があるのだ。『市井集』(昭和13年砂子屋書房)、『浅見淵著作集 第3巻』(昭和49年河出書房新社)に収録されている。
 一つ空いた墓所をはさんである島村抱月の墓からの連想、類推、もしかしてどこかにそういう文献があるのかもしれない、「まこちゃんのおはか」は島村抱月との大正の大恋愛悲劇の相手、松井須磨子の墓、記念碑である、という、噂がある(噂がある、ということを証明することもできない)。ぼくはどうにもそれは違うんじゃないかと、なんとなくな希望と勘で、思っている。菅原克己は詩の中でこのお墓について、ジェニイ(フォスター作曲「金髪のジェニー」)、シンネエヴェ(ビョルンソン著「シンネエヴェ・ソルバッケン」邦訳「日向丘の少女」)、岸田劉生描く少女、を連想すると書いている。ぼくはこのお墓は松井須磨子ではなく、ジェニーだと、思っていたいのだ。
 空にパラフィンさんにお借りした、菅原克己の姉、高橋たかこ著『詩と散文 草木の窓』(昭和55年 栄光出版社 非売品 装丁/菅原克己)は、すごい本だ。菅原克己の『遠い城』(ぼくはこの本、ベタなはなしだが、無人島で死ぬしかないときに持って行きたい10冊の本の1冊だ)に出てこないことが出てくる。菅原克己が非合法活動で逮捕される場面を内側から。刑事に踏み込まれた家のなかで、弟よ今日は帰って来るなと願う姉。「ブラザー軒」の氷水屋は、ブラザー軒が夏だけ街中にだす支店みたいなものであること。一昨年ブラザー軒本店に行った時、店員さんに、「あの、ここが菅原克己が詩に書いた!」なんて言っていたことを思い出す。菅原克己は「雑司が谷」もしくは「雑司ヶ谷」のことをどの文章でも必ず「雑司カ゛谷」(小さい片仮名のカに点々)と表記する。姉高橋たか子は「雑司ヶ谷」。
 「まこちゃんのおはか」の裏側に文字が刻まれていることを、今回初めて知り(石の肌と同化しかけているのだ)、さらなる迷宮に入った。”愛の詩集「小草」によりて之を建つ”。わからない。愛の詩集「小草」ってなんだ。わからないながらに、ずっと抱え続けていると、いつか扉が開かれる可能性のある、古本屋という恵まれた仕事をしている。
 勉強で、フォスターの「金髪のジェニー」をユーチューブで聴いた。すばらしいのだ。雑司が谷に関するものに限らず、菅原克己の詩が呼び覚ます感興のひとつが、あると思った。ノスタルジーとはちょっと違う気がするのだが。ヴァイオリンのバージョン。William Primrose plays Foster Jeanie with the Light Brown Hair。
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 本物の「まこちゃんのおはか」にて。石の色というのはとても難しく、細部の形状もかなり間違っている。手を合わせお礼を伝え、祈った。
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浅見淵 「墓と愛情」
 立派な墓はあっても、流露的な愛情が感じられる墓というものはいたって尠い。
(略)
 僕のいま住んでいるところは雑司ヶ谷の墓地に近いので、ちょいちょい散歩に出掛けるが、初めに書いた――流露的な愛情が感じられるという墓は、今迄に二つ見掛けたきりだ。
 一つは青緑色の自然石に、「まこちゃんのおはか」と二行に彫られた墓だ。
 それは抱月の墓のつい近くにあるから、雑司ヶ谷の墓地を散歩した人なら、大抵気が附いているだろう。何処か蔦堂流の痕が残っている女手で、美しくつつましやかにかかれているのだ。葬られているのは幼くして亡くなった一粒種の愛児ででもあろうか、墓碑を眺めていると何にか身に沁みて来るものがある。
 もう一つは、小泉八雲の墓のうしろのほうにある墓だ。
(略)

(昭和6年執筆 『市井集』昭和13年砂子屋書房)

売切
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by ouraiza | 2012-06-22 00:58 | 工作 | Comments(2)
Commented at 2017-11-07 14:29 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ouraiza at 2017-11-09 13:25
芝原様 コメントありがとうございます。私も知人が所持していたものを見せていただいたのと、一時ネットで販売されていて購入するか悩んだのと、その2件しか目にしておりません。古書店の棚を眺める楽しみの一つとして、気長な課題として温めております。地味ですので特価均一に出やすい気もしますので、古書店とネットをこまめにチェックしていればいつかは、という感じだと思われます。せと
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